ഇങ്കോ

インコに向かって呟くだけの鳥籠🦜

資本主義とダイエット

この本の表紙デザインと、タイトルだけではまず手に取ることはなかったし、出会えなかったと思われる本。なぜ知ったかといえば、著者である夏目祭子さんの他の本が興味深かったので、他にどんな本を書いているのか調べているうちに見つけたのがこの本です。

 

 夏目祭子「ダイエットやめたらヤセちゃった」 

 

ダイエットやめたらヤセちゃった―アンチダイエット・スリミングの魔法

ダイエットやめたらヤセちゃった―アンチダイエット・スリミングの魔法

 

 

とっても軽い感じのタイトルですが、世界の構造に関わることが書かれています。決してラクに痩せてラッキー!的な内容ではありません。

 

ダイエットってまだまだ(2019年)現在、誰でもやらなければいけないもので、世の女性は痩せなきゃいけないもので、電車の車内をはじめあらゆる広告で痩せなさいと語りかけてきますよね。

 

著者も、切実な想いであらゆるダイエットを己の肉体で実体験してきた。その結果、痩せるためにはダイエットという思考そのものがドツボにハマる構造を持っていたことに気づき、それらを丁寧にひとつずつ紐解いて解説しています。

 

減量テクニックのパターンを最初に編み出したのは第二次世界大戦後のアメリカで、食料についても大量生産、大量消費が至上命題だった。つまり、食べろ、痩せろ、お金を使えと。自己管理もできなければサクセスできない、ダイエットは当たり前の嗜みとなっていきます。

 

 ダイエットをやればやるほど、ヤセる代わりに太る、その事実を認めずにあくまでヤセていようとこだわると摂食障害になるほかない

 

ようするに、身体が持つ本来の健康と美しさを維持しておこうとする力を、壊していってしまうのがダイエット。身体の声である食欲を否定し、食べ物の有り難みを否定し、身体の中でエネルギーの流れが滞り、おかしいことになっていく。これって考えたら悲しいことですよね。

 

また、カロリーという概念の矛盾の説明、物質以外の心の栄養や頭の栄養のことや、人によって&時によって必要な栄養は変動すること。画一的、あるいは一方的なダイエットのメソッドや指導には難しさがある。どれも頷きながら読みました。

 

体をエネルギーで満たすこと。

心を熱で満たすこと。 

 

また、いくら体の声を聴き取る力を大切にしても、どうしても過食がやめられないときの対策も具体的にしっかりと書かれています。過食の道具として食品への罪悪感もなく機械的に封を切り流し込むことができる「工業製品」のこと。コンビニと「翻訳フレーバー」型の商品開発。ここまでくると、経済を支えている様々な業界自体の仕組みに疑問を投げかけることになってきます。必要なだけの食料が間に合っている状況でなお、必要以上の消費を促さなければ経営が立ちいかなくなってしまう企業の台所事情。

 

必要以上の物を売り続けなければ潰れてしまうという危機感に終われる仕掛けの中で、回っているのが今の世の中なのです。

 

自分たち一人一人が自分にとっての必要と不必要を見分ける力、要る時は受け取る、要らなければ差し出されても受け取らない、一人一人の力が、世の中の流れを変えていくことができるのではないかと訴えています。(著者はここで「エンデの遺言」についておすすめされていて、メモしておきます。)

 

体を絞りたいと思ったときに上手くいかず自分の意志の力を責めたり、病気や妊娠中に医師から痩せろと言われて頑張ろうとするたびに食べ物の有り難みを受け取れずに逆にエネルギーが滞ってしまったり、自分や身近な周りの人たちの苦しむ状況を見ていて、捻れた脅迫から自由になると良いのにと思います。

 

「感情は、食べられる栄養だ!」や、機械文明に組み込まれる以前の「踊り」の役割など、感覚的に腑に落ちるレスキュー解説もたくさん載っています。

 

太るのは、足りない栄養がある証拠(!)。自分の内側からくる欲求を信頼して「今それ、本当に欲しいの?」体と心を貫いて流れる、意志と感情の無限のエネルギー資源をどこまで燃やせるか。全ては「自覚する力」の鍛錬からですって。なかなか高度な話なですけれどおもしろい。良い本でした。 

 

ダイエットやめたらヤセちゃった―アンチダイエット・スリミングの魔法